#243 の投稿です。

第二百四十段 しのぶの浦の蜑の見る目も所せく
 しのぶの浦(ウラ)の蜑(アマ)の見る目も所(トコロ)せく、くらぶの山も守(モ)
 る人繁(シゲ)からんに、わりなく通(カヨ)はん心の色(イロ)こそ、浅からず、あ
 はれと思ふ、節々(フシブシ)の忘れ難(ガタ)き事も多からめ、親・はらから許(ユ
 ル)して、ひたふるに迎(ムカ)へ据(ス)ゑたらん、いとまばゆかりぬべし。
 
 世にありわぶる女の、似げなき老法師(オイボフシ)、あやしの吾妻人(アヅマウド)
 なりとも、賑(ニギ)はゝしきにつきて、「誘(サソ)う水あらば」など云ふを、仲人
 (ナカウド)、何方(イヅカタ)も心にくき様(サマ)に言ひなして、知られず、知ら
 ぬ人を迎(ムカ)へもて来(キ)たらんあいなさよ。何事(ナニゴト)をか打ち出
 (イ)づる言(コト)の葉(ハ)にせん。年月(トシツキ)のつらさをも、「分(ワ)
 け来(コ)し葉山(ハヤマ)の」なども相語(アヒカタ)らはんこそ、尽(ツ)きせぬ
 言(コト)の葉(ハ)にてもあらめ。
 
 すべて、余所(ヨソ)の人の取りまかなひたらん、うたて心づきなき事、多かるべし。
 よき女ならんにつけても、品下(シナクダ)り、見にくゝ、年(トシ)も長(タ)けな
 ん男は、かくあやしき身(ミ)のために、あたら身をいたづらになさんやはと、人も心
 劣(ココロオト)りせられ、我が身は、向(ムカ)ひゐたらんも、影恥(カゲハヅ)か
 しく覚えなん。いとこそあいなからめ。
 
 梅の花かうばしき夜(ヨ)の朧月(オボロヅキ)に佇(タタズ)み、御垣(ミカキ)が
 原(ハラ)の露分(ツユワ)け出でん有明(アリアケ)の空も、我(ワ)が身様(ミザ
 マ)に偲(シノ)ばるべくもなからん人は、たゞ、色好まざらんには如(シ)かじ。
 
 ※
 逢瀬は人の目も気になるし、夜道も人が多くて困るけど、それでも通うのは恋しいから
 なんだ、そうやっているうちに、思いがけない出来事に遭遇したりして、忘れ難い思い
 出が沢山できるのだけど、家族の許しを得て、結婚したら、照れくさい思い出に変わる
 んだよ。
 
 婚期を逃した女が、親子ほど年の違う法師や、素性のわからない田舎者なんかが、言い
 寄って来るにつけ、「もらってくれるのでしたら」などと言うのだけれど、仲人が、周
 りに如何にも良い話のように言ったって、知らない者同士が一緒になるなんてつまらな
 いと思うよ。何をもとに会話をするのだろう。あの年月があればこそ「分け来し葉山
 の」なんて歌について語らったりして、会話も尽きないというものなのに。
 
 大体、他人が取りまとめた話には、心遣いが無い事が、多いと思うよ。よい女であれば
 ある程、品が無く、顔も悪く、年もずっと上の男は、こんな自分のために、人生を捧げ
 させるのかと、気が咎め、自分の不甲斐なさに、向かい合う事もできず、頭が上がらな
 い。これではどちらにもよくないよ。
 
 梅の花の香る夜に朧月を見上げたり、庭の露を分け入って明け方の空見る、そんな自分
 を想像できないような人は、恋なんてしないほうがいいだろうけどね。
 
 ※
 「ご隠居はん、こういう歌にかけた文章は難しいです。」
 「これは仕方がない。」
 「ですから今回はほとんど意訳という感じになりました。」
 「ふむ、それで。」
 「兼好さん、若いなぁ。」
 「それだけかい...。」
2010/12/18(Sat) 17:42:12

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