「夜(ヨ)に入りて、物の映(ハ)えなし」といふ人、いと口をし。万のものの綺羅 (キラ)・飾(カザ)り・色ふしも、夜(ヨル)のみこそめでたけれ。昼は、ことそ ぎ、およすけたる姿(スガタ)にてもありなん。夜は、きらゝかに、花やかなる装束 (シヤウゾク)、いとよし。人の気色(ケシキ)も、夜の火影(ホカゲ)ぞ、よきはよ く、物言ひたる声も、暗くて聞きたる、用意ある、心にくし。匂(ニホ)ひも、ものの 音(ネ)も、たゞ、夜ぞひときはめでたき。 さして殊(コト)なる事なき夜、うち更(フ)けて参れる人の、清げなるさましたる、 いとよし。若きどち、心止(トド)めて見る人は、時をも分(ワ)かぬものならば、殊 に、うち解(ト)けぬべき折節(ヲリフシ)ぞ、褻(ケ)・晴(ハレ)なくひきつくろ はまほしき。よき男(ヲトコ)の、日暮(グ)れてゆするし、女(ヲンナ)も、夜更く る程に、すべりつゝ、鏡(カガミ)取りて、顔などつくろひて出づるこそ、をかしけ れ。 ※ 「夜になると、物が映えない」という人が居るけれど、違うよね。物の華やかさ・飾 り・色合いも、夜こそ引き立つんだ。昼だと、簡素で、目立たなくてもいいじゃない。 夜には、きらびやかで、華やかな装いが、いいと思う。人の姿も、夜の火影で、いい感 じに見えるし、話し声だって、暗い中で聞く方が、思いがよく伝わって、いいものだ。 香りも、音楽も、とにかく、夜の方が際立ってくる。 なんて事も無い夜、遅くになってやって来る人の、清らかな姿も、いいものだね。若い 者同志が、気になって姿を追い掛けたりするのは、時間に関係が無いから、特に、打ち 融け合いそうな頃には、常に身だしなみには気をつけておくべきだね。いい男が、日が 暮れてから髪を整えたり、女も、夜が更けてから、席をはずし、鏡を取って、化粧を直 して戻ってくるというのが、いいのだよな。 ※ 「ご隠居はん、備えあれば憂いなし。転ばぬ先の杖。注意一秒怪我一生。」 「いつにもまして、なにをゆうとるんや。」 「インターホンが鳴るので出てみたら、かわいい女の子が立っていた。ちゃんとした格 好で出れば良かったなぁと後悔するのもつかの間、差し出されたものに目を止めると、 宗教の勧誘だった。なんだかなぁ。」 「ほんま、何ゆうとるんや。そんな事はえぇから、はよ本題に。」 「はい。では。 昔に比べると、季節感も弱くなりましたけど、時間の違いも随分感じません。」 「文明のせいやな。」 「何時だって明るいから、格好がだらしなくなるのでしょうか。」 「あれは、好みの問題だからね。とは言っても目立っちゃったからね。」 「はぁ。」
2010/02/27(Sat)
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