或所の侍(サブラヒ)ども、内侍所(ナイシドコロ)の御神楽(ミカグラ)を見て、人 に語るとて、「宝剣(ホウケン)をばその人ぞ持ち給ひつる」など言ふを聞きて、内な る女房の中に、「別殿(ベツデン)の行幸(ギヤウガウ)には、昼御座(ヒノゴザ)の 御剣(ギヨケン)にてこそあれ」と忍びやかに言ひたりし、心にくかりき。その人、古 き典侍(ナイシノスケ)なりけるとかや。 ※ ある所に居た侍どもが、内侍所で行われた御神楽について、人に語ろうと「宝剣をその 人は持っておられた」などと言っているのを聞いて、御簾の中の女官が「別殿への行幸 ですから、昼御座の剣ですね。」とさらりと言っていたのは、実に奥ゆかしい。その人 は、長く天皇のお世話係をしていたそうだ。 ※ 「ご隠居はん、立派な武士が立派な刀を腰に差していました。」 「あれは、竹光じゃよ。」 「チャンチャン♪」 「そんなこと言うてる場合やない。」 「そうでした。」 「まじめにやりなさい。」 「でも、こんな感じではないですか。天皇が腰に差しているのだから宝剣に違いないと 考えたのか、あまりにも実戦向きではなかったので宝剣だと言ったのか。」 「どちらにしても物を知らなかったという事か。」 内侍所の御神楽:三種の神器の一つ、八咫鏡を安置している所。そこで行われる神楽。 現在では賢所で行われている。
2009/11/14(Sat)
|