第百五十二段 西大寺静然上人 |
西大寺静然上人(サイダイジノジャウネン)、腰屈(カガ)まり、眉(マユ)白く、 まことに徳たけたる有様(アリサマ)にて、内裏(ダイリ)へ参られたりけるを、西 園寺内大臣殿(サイヲンジノナイダイジンドノ)、「あな尊(タフト)の気色(ケシ キ)や」とて、信仰(シンガウ)の気色(キシヨク)ありければ、資朝卿(スケトモ ノキヤウ)、これを見て、「年の寄(ヨ)りたるに候(サウラ)ふ」と申されけり。 後日(ゴニチ)に、尨犬(ムクイヌ)のあさましく老(オ)いさらぼひて、毛(ケ) 剥(ハ)げたるを曳(ヒ)かせて、「この気色(ケシキ)尊(タフト)く見えて候 ふ」とて、内府(ダイフ)へ参らせられたりけるとぞ。 ※ 西大寺の静然上人が、腰が曲がり、眉が白く、徳が溢れるかのようなお姿で、内裏へ やって来られたのを、西園寺内大臣殿が、「あぁなんと尊いお姿か」と、心酔してい る表情だったので、資朝卿、その様子を見て、「ただ年を取っているだけではない か」と言った。 数日後、むく毛の犬のやたらに年がいってよれよれで、毛が禿げているのを曳かせ て、「この様子が尊く見えるのだろ」といって、内府の元へ連れて行かせたそうだ。 ※ 「御隠居はん、なんと嫌味な人でしょうか。」 「二人には何か確執があったのだろうね。」 「いやぁそれにしてもあからさまですね。いくら中納言でも内大臣に向かってこの言 いようは。」 「後に島流しにされて、斬られるような人だからね。ただ言い方はともかく、見た目 で判断するなって言いたいのかもしれないよ。」 「公卿は血なんだよ!ってことですか?」 「いや、そこは普通実力と考えないかい。」 西大寺 :奈良県にある真言律宗の総本山。幕府との繋がりが強い。 鎌倉の極楽寺も真言律宗。 西園寺内大臣:西園寺実衡(1290-1326) 第八十三段の竹林院入道左大臣西園寺公衡の子。 祖父は大覚寺統、父は持明院統、子は持明院統。 本人はどうだったのだろう。 代々関東申次の家であるので両統迭立問題よりも幕府との繋がりを嫌 われたのかも。 第八十三段はこちら http://bbs.mail-box.ne.jp/ture/index.php?page=9#84 資朝卿 :日野資朝(1290-1332) 内大臣とは同い年だが、二人の関係はよくわからない。 後醍醐天皇の側近なのだから大覚寺統なのでしょう。 兄と弟は持明院統。 詳しくはウィキペディアで。画像がもろにこの段です。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E9%87%8E%E8%B3%87%E6%9C%9D むく毛の犬 :毛の長い犬のこと。 内府 :内大臣のこと。 2009/05/16(Sat)
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