因幡国(イナバノクニ)に、何(ナニ)の入道(ニフダウ)とかやいふ者の娘、かた ちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、たゞ、栗(クリ)をのみ食 ひて、更に、米(ヨネ)の類(タグヒ)を食はざりれば、「かゝる異様(コトヤウ) の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許(ユル)さざりけり。 ※ 因幡の国に住む、何とかという入道の娘、大変な美人だということで、多くの男が言 い寄って来たけれど、この娘、ただ栗のみを食べ、米などは食べないので、「こんな おかしな娘、人前に出せない」と、親は許さなかった。 ※ 「ご隠居はん、ついに来ましたね。第二百二十九段の『よき細工は、少し鈍き刀をつ かふといふ。・・・』と共に、徒然草を始めるきっかけの段です。」 「何を書き、何を書かないか。の段だね。」 「三位以上の人が仏門に入ることを入道と言うそうですから、いい家の娘が栗しか食 べない。これは甘やかした結果ということなのか、嫁にやりたくないと言う親ばかの 話なのか、もっと他に何かあるのか未だにわかりません。」 「わからないままおいておくのもいいのではないかな。」
2006/07/02(Sun)
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