第五十五段 家の作りやうは |
家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑(アツ) き 比(コロ)わろき住居(スマヒ)は、堪へ難き事なり。 深き水は、涼(スズ)しげなし。浅くて流れたる、遥(ハル)かに涼し。細かなる物 を見るに、遣戸(ヤリド)は、蔀(シトミ)の間よりも明し。天井の高きは、冬寒 く、燈(トモシビ)暗し。造作(ザウサク)は、用なき所を作りたる、見るも面白 く、万(ヨロヅ)の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。 ※ 家の造りは、夏を中心に考えるべきだ。冬は、どんな所にでも住める。暑い時期の造 りの悪い家は、耐えることができないのだよな。 深い水は、涼しく感じない。浅くて流れている方が、遥かに涼しく感じるよ。細かい 物を見るときは、遣戸は、蔀の間よりも明るくていい。天井が高いと、冬寒いし、灯 りも暗くなる。細工をするときは、無駄に思えるところにしておくと、見た目に面白 く、色々役に立っていいよ、まぁ分かりきったことなんだけどね。 ※ 「ご隠居はん。これも有名な段ですね。」 「あなたの仕事に関係あるのでは。」 「そうですね。教科書の1ページ目にも必ず載っていましたね。今でも夏をむねとす るのは変わっていません。昔は自然の力で涼しく出来るよう、開放的で風通しのよい 家を建てていました。今は冷房効率を上げるために如何にして風通しをコントロール して、密閉度を上げるかですから、同じ夏をむねとしている家作りも、30年ほど前を 境に、断絶が起きていますよ。だから日本には良質な住宅のストックがないのです。 あ、すいません。語ってしまいました。」 「はははは。」 遣戸(やりど):引き戸のこと。現代の雨戸と同じイメージです。 蔀(しとみ) :跳ね上げて開く板戸。 蔀は次のURLで見るとよく分かります。 http://www.aisf.or.jp/~jaanus/deta/s/shitomido.htm 開いた後、庇のようになるので、室内が暗くなるのですね。 2006/10/30(Mon)
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